2021年06月14日
三か月の月日~さをりと彼~
3月15日。
彼はちょっと落ち着かなかった。
何に対してイライラしているのか自分でもわからなくて、でも周りに迷惑をかけたくなくて、一人で苦しんでいるように見えた。
「次の経糸で迷っているんだけど、選んで貰えないかな?」
私からの突然のお願いに一瞬戸惑ったように見えた。
「いいですよ」とぶっきらぼうに答えて、「選ぶ」というより目に入った横並びの5色を「取って」渡してくれた。
その日は、何とか終わりの時間まで過ごすことが出来たが、葛藤ずる日々は続いていた。

5月11日。
2か月もあいてしまって、やっと糸を通す作業に着手。
さをりにとってみれば、2か月も放置されて、やっと動き始めたところ。
彼にとっての2か月は、あまりにも色々な変化があって、でもその変化でまさに今、前に向かって動き始めていた。
複雑に束ねられた糸を、一本一本ほぐすように、自分の気持ちと、行動と、周りの期待と、反応と、あらゆるものを丁寧に慎重にほどいてきた。

6月14日。
雨がしとしと降る日は、さをりと向き合うのにもってこいの日。
無心になって、糸を通す。

あの時、彼が選んだ糸はとても暗い印象だった。
カラフルな原色が好きな私では絶対に選ばない色だったし、あの時のなげやりな彼の気持ちが反映されているような、やりばのない思いも一緒に受け取ったような、そんなイメージだった。
だけど。
通し終えて、整えた糸を見て驚いた。

なんてキラキラしているんだろう。
そうだ、今の彼も。
ゆっくりだけど、確実に、前に進んでいる彼の、時折見せる笑顔のようだ。
外は雨。
滴のようにぽたぽたと、糸を伝うように着いた水玉の経糸。
横糸に選んだのは、雨の水色。
いや、快晴の空かもしれない。

なんてきれいなんだろう。
三か月前のあの日は想像もしていなかった。
まさか、こんなきれいな重なりを見せるなんて。
「少しずつ」が積み重なって、思いもしなかった景色が広がる。
進んでいないような日々が、実を結ぶ時がくる。

今日通し終えた糸は、これで私の手元を離れて誰かの作品になる。
織り手が思う緯糸と交差し、布が出来ていく。
きっと彼も、居場所を変えて、たくさんの人や出来事と交わって、人生を歩んでいく。
糸が一枚の布になるとき、弱い糸は、誰かを包む強い布にかわる。
きっと彼も、誰かを、自分を、心から大切にできるようになる日がくる。
それまで、そっとそばにいよう。
三か月のあの日、彼が選んでくれなければ出会えなかった今日のさをり。
彼と私も、もしかしたら出会わなかったかもしれない。
でも、出会った以上は、私も横の糸。
たくさんの横糸と出会う、さをりの完成と、それと重なり合うような彼の人生をそっと見守りたい。
END
と、小説風に書いてみましたが、さをりと人の人生って重なるものがあるなぁと、しみじみ思ったのでした。
ほんとは一日二日で終わる工程に、三か月かけたことを隠すために美化して書いたことは秘密です
彼はちょっと落ち着かなかった。
何に対してイライラしているのか自分でもわからなくて、でも周りに迷惑をかけたくなくて、一人で苦しんでいるように見えた。
「次の経糸で迷っているんだけど、選んで貰えないかな?」
私からの突然のお願いに一瞬戸惑ったように見えた。
「いいですよ」とぶっきらぼうに答えて、「選ぶ」というより目に入った横並びの5色を「取って」渡してくれた。
その日は、何とか終わりの時間まで過ごすことが出来たが、葛藤ずる日々は続いていた。

5月11日。
2か月もあいてしまって、やっと糸を通す作業に着手。
さをりにとってみれば、2か月も放置されて、やっと動き始めたところ。
彼にとっての2か月は、あまりにも色々な変化があって、でもその変化でまさに今、前に向かって動き始めていた。
複雑に束ねられた糸を、一本一本ほぐすように、自分の気持ちと、行動と、周りの期待と、反応と、あらゆるものを丁寧に慎重にほどいてきた。

6月14日。
雨がしとしと降る日は、さをりと向き合うのにもってこいの日。
無心になって、糸を通す。

あの時、彼が選んだ糸はとても暗い印象だった。
カラフルな原色が好きな私では絶対に選ばない色だったし、あの時のなげやりな彼の気持ちが反映されているような、やりばのない思いも一緒に受け取ったような、そんなイメージだった。
だけど。
通し終えて、整えた糸を見て驚いた。

なんてキラキラしているんだろう。
そうだ、今の彼も。
ゆっくりだけど、確実に、前に進んでいる彼の、時折見せる笑顔のようだ。
外は雨。
滴のようにぽたぽたと、糸を伝うように着いた水玉の経糸。
横糸に選んだのは、雨の水色。
いや、快晴の空かもしれない。

なんてきれいなんだろう。
三か月前のあの日は想像もしていなかった。
まさか、こんなきれいな重なりを見せるなんて。
「少しずつ」が積み重なって、思いもしなかった景色が広がる。
進んでいないような日々が、実を結ぶ時がくる。

今日通し終えた糸は、これで私の手元を離れて誰かの作品になる。
織り手が思う緯糸と交差し、布が出来ていく。
きっと彼も、居場所を変えて、たくさんの人や出来事と交わって、人生を歩んでいく。
糸が一枚の布になるとき、弱い糸は、誰かを包む強い布にかわる。
きっと彼も、誰かを、自分を、心から大切にできるようになる日がくる。
それまで、そっとそばにいよう。
三か月のあの日、彼が選んでくれなければ出会えなかった今日のさをり。
彼と私も、もしかしたら出会わなかったかもしれない。
でも、出会った以上は、私も横の糸。
たくさんの横糸と出会う、さをりの完成と、それと重なり合うような彼の人生をそっと見守りたい。
END
と、小説風に書いてみましたが、さをりと人の人生って重なるものがあるなぁと、しみじみ思ったのでした。
ほんとは一日二日で終わる工程に、三か月かけたことを隠すために美化して書いたことは秘密です

Posted by 就労継続支援B型事業所 きらり at 17:44│Comments(0)
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